川尻温泉  老人憩いの家
  今は合併して指宿市となった旧山川町内は黄金の温泉密集地域となっています。鹿児島県は本当に大分県と良い勝負ができるくらい色々な共同湯がありますが、九州北部エリアの湯布院温泉や黒川温泉・別府温泉などの陰に隠れがちでどうも華やかなスポットを浴びることが少なくないような気がします。(幸い2008年の大河ドラマ篤姫の影響と新幹線の知名度のおかげで安楽温泉や妙見温泉が見直されつつありますが)。そんなわけで、ある意味現代日本に残された数々の秘湯とも言うべき温泉があちこちにあります。
  川尻温泉もその一つです。周囲にはなんと言っても指宿温泉が、次に知名度で行くと鰻温泉などもあり、有名どころに囲まれて、川尻温泉といわれてぴんと来る方は少ないと思います。川尻温泉には旅人は皆無です。私も偶然が重なって知らなければ訪問の機会もなかったことでしょう。
  私がこの川尻温泉をしるきっかけとなったのは前述の徳光温泉に入浴中「何で東京からわざわざこんな小さな温泉に?」というお約束の地元の方との会話でした。質問に対して、「こういう生活にとけ込んだ小さな温泉の研究をしているのです」と答えると「んなら、開聞はいったか」ときかれ、「行った」というと「んなら川尻は?」と聞かれました。当時“開聞”といったら廃止された国民宿舎かいもんそうのことを指しましたので、「国民宿舎ですか」と聞くと「そうでなくあそこにもここみたいな部落で源泉持っててみんなで入ってるやつがあるんだ」と教わったのでした。
  川尻温泉の浴舎は廃止された国民宿舎の隣にありました。老人福祉施設となっていて、名称は「老人憩いの家」です。ですからぱっと見には何か古い集会所か公民館か図書館かそういう類のものにみえます。入り口を入ると受付の所に紙の箱があり、そこに120円いれ、左に進みます。中はいかにも公的な建物らしく廊下や壁の質感、扉の感じなど、全国どこに行っても違う業者が作っているはずなのになぜ皆同じ雰囲気をまとうのか不思議です。脱衣所をはいると浴室と脱衣所は分離タイプで、一体型ではありません。浴室はそんなに広くはないのですが、湯船と洗い場のバランスが良いのか比較的広く感じます。壁際に縦に半小判型の浴槽が据えられ、奥側の方に塩ビの源泉口があります。湯はものすごく熱くバルブを開放するとあっという間に湯船全体が熱湯に早変わりです。湯は湯船ではオレンジの夕日色の湯ですが、源泉口では透明で海の水と同じ位塩辛いです。本当は正確にはこの源泉、川尻温泉ではなく「恵美寿温泉」という名前です。成分表には「塩化物泉59度」とありました。また、ここはなんと贅沢にも2つの源泉を所有し、もう一つは成分表がありませんでしたが、鉄分を豊富に含み舌にも感じる炭酸泉の類で弱い感じの「七里田温泉S湯」と思ってください。この透明な源泉は上がり湯と洗い湯用に浴室のはじの少し小さめの湯溜め(それでも温泉バカには十分琴線に触れるものなのですが)にこれまた贅沢にも掛け流しで使われています。私は地元の人がいなくなった時にここに浸かりたい衝動を抑えるのが大変でした。  

※このレポは2005年に作成しました。川尻温泉が現在も営業中であるかは未確認です。

  上の画像:浴室の窓から見える開聞岳。国民宿舎の露天からの画像が有名ですが、ここからも当然見えます。


  左:手前が共同湯。奧のオレンジ色の建物が廃業した国民宿舎。
  よく見る地方の図書館みたいです。
  この60円とか70円とかがいかにも地域密着の共同湯然としていて良いです。
  靴箱と受付。花瓶の横にお金を入れる。


  上:オレンジの夕日色の湯。とにかくしょっぱく湯が濃いです。また、この系統の色でもここまでオレンジが鮮やかなものはあまり見たことがありません。

  左:全体感。奧が炭酸泉ぽい感じの上がり湯です。どちらも鉄分がすごいのが床の変色具合から推察できます。
  湯船は温泉に染められて全てが赤かオレンジです。
  ここに浸かりたかったです。特にオレンジの源泉は熱いのに対して、この湯は37〜8度だと思います。ク〜ルダウンに最適と思いました、加えてこのオーバーフローの量。
  16時におじゃまし、刻々と夕日が開聞岳にかかっていきました。




温文研ホームへ 県別リストへ






inserted by FC2 system